Steve Amirault Quartet at The Pilot 8/15/2015 - 2015.09.09 Wed

( photos by manmarukumi at the pilot in Totonto 2015 )
暑い日々が続いており、この北国カナダでもヒート・アラートが出ておりました。日本でも異常に暑い夏のようですが、水分補給には十分に気をつけましょう。さてライヴ涸れした状態のばあ様の生活にも少し余裕が出来てきました。そしていつもの急なライヴ行きを即決行です。
今回は、いつも気になっていたトロントの中心地ブロアー&ヤング・ストリートに位置する、創立70周年を迎える楼館 "The Pilot Tavern" を訪れました。1944年にオープンしたこのターヴァンは、トロントの中心を走る世界でも最長のストリートとして有名なヤング・ストリートに位置しておりましたが、1972年に少し奥まった現在地に移りました。ストアー・フロントからは想像できない広いスペースの店内は、長いバー・カウンターが陣取り、その前面にテーブル席が位置し、その周りにもカウンターが囲むようにあります。ライヴのステージは、そのテーブル席の片隅に適当にスペースを取ってセットする分けですが、このライヴが実はタダなのであります。

( 飛行機の母体のような素材で建築されているフロント )
毎週土曜日の3時半から6時半までのライヴがタダって嘘みたいでしょ、しかも出演する方はある程度どころか、今が旬のミュージシャン達なのです。しかしこの時間帯が少し週末の行動時間には早すぎるというか、中途半端というか、こんなに良いフリー・ライヴでも満席でないのには驚きでした。予定表をチェックしていると聴きたいグループも結構出演していましたが、行きたいとは思っていても時間的に都合が合わなかったというか、しかし今回はもう何があってもこのライヴ涸れした頭を潤したいと、久しぶりにバスと地下鉄を利用して1時間弱かかってトロントまで遠出。いや~っ、そのかいがありました!

( Steve Amirault, Steve Hall and Steve Wallace at The Pilot 2015 )
今回のメイン・ミュージシャンは、ケベック州から去年トロントに移住して来たというピアニスト兼ヴォーカリストの Steve Amirault です。どうりで聴いた事のない名前だなとは思っていましたが、Quartet のメンバーは御馴染みの凄腕ばかりだから、きっと間違いないと確信しました。彼らと一緒ならば悪いわけない、というのが理由なのですが、 Steve Amirault さんは、なんと九州は福岡のホテルでピアノの弾き語りを4か月ほどやっていたそうです。その時の経験をオタワの Ottawa Citizen という新聞にインタヴューされている記事を見つけたのでリンク致しますので、お時間のある方は、覗いてみて下さいな。かつ丼と、鍋焼きうどんと、刺身が大好きという彼の日本での様子です。
↓オタワの新聞記事
Steve Amirault's Japanese Hotel Gig Adventure

( Steve Amirault and Kevin Turcotte )
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実は今回のばあ様のお目当ては、トランぺッターの Kevin Turcotte とピアニストの Robi Botos の弟のドラマーの Frank Botos を聴きたいというのも一つの理由でした。Kevin Turcotte は、今年50歳になる技術的にも、実力も、センス感も素晴らしいトランぺッターです。もう何度も彼のパフォーマンスは観ていますが、やはり生音を聴くのはとてもエクサイティングです。Dave Young Quartet の一員でもある彼ですが、多くの素晴らしいアーティストと共演されています。そして最新のホット・ニュースは、9月に発表される "Born To Be Blue" という映画のトランペット演奏を担当しているのです。

そうです "Born To Be Blue" といえばトランぺッターの Chet Baker ですね。彼を題材とした映画が、2014年カナダのオンタリオ州の北にある小さな Sudbury という街で撮影されました。同じくカナダのピアニストでコンポーザーでもある David Braid が音楽監査をしました。なのでとても楽しみにしているのです。しかもそれに出演する俳優が、なんと Ethan Hawke なのです。少し感じが似ていないでもないですが、細い危うい感じがピッタリかもしれませんね。彼の出演していた "Snow Falling On Cedars" を観て好きになりましたが、どんな演技をされているか楽しみです。少し趣向を凝らした構成で撮影されたストーリーなのだそうです。ティケットが取れるといいのだけど、どうなりますやら。
まだ情報も少いゆえ彼のファンも、そのトランペット演奏を担当しているなんて知らないかもしれません。演奏の後、少しお話をする機会を持ち、「実は貴方が音楽担当した映画が、9月にオープンされるのを楽しみにしているのよ」 と興奮を抑えきれずに伝えましたら、「へーっ、どこで情報をしいれたの」 と驚きの様子。「私はチェットの大ファンで、貴方のライヴもフォローしているの、以前に「一力」にも来て下さったでしょ、そういう分けで情報も色々と収集しているの」 と、嬉しそうな Kevin さんのお顔でした。

Frank Botos は、CDを聴いてすでに御馴染みの名前でしたが、実際では今日が初めてのドラマーです。ピアニストの Robi Botos の兄弟で Dave Young Quartet の "Mean What You Say" や Robi Botos Trio "Place to Place" を聴いて良いドラマーだなとは思っていましたが、やはり今一実際の響きというのが分からなかったというか、でも今回の実演を聴いて、メリ張り感、グループの中での立ち位置と、そのコントロールの技が際立っていました。ばあ様に取っての 「いや~ええわ~っ」 の世界観を持っていました。

( Frank Botos at the Pilot )
さて1st set の始まりは、曲は分かっているのに何時ものようにタイトルが出てきません。 二曲目は確かにLouis Armstrong がよく演奏している曲なのに、これまたタイトルが出てきません。ばあ様もこの展開には流石にショックを受けました。何でも継続してやっていないとドンドンと忘れていくのですね。しかし Quartet の演奏は素晴らしい。ミュージシャン達がとてもリラックスしており、皆が触角を触れ合いながら調整をしている姿が今から深まっていくライヴの行き先をわくわくさせてくれますね。三曲目にやっとタイトルが出てきました。それは Antonio Carlos Jobim の "Triste" でした。暑い夏にはかかせないボサですね。こういうのが一曲入ると雰囲気が一瞬に変化するのが楽しいところです。
4曲目に、きました!"I Fall In Love Too Easily" ですね、これですぐに Kevin が今回の映画を意識しながら、曲を選んでいるのだと思いました。美しいバラード仕立てで、彼のトランペットが優しく歌っています。「いやぁ~、ええわ~」の世界です。お次はかなり早いテンポの "Misty" でした、歯切れの良いドラムス、なかなかホットなソロを披露されました。観客の中の Botos Brothers のお父様がとても満足そうにドラマーの息子さんを見守っている姿が何とも言えず温かいです。あっと言う間にファースト・セットが終わってしまいました。久方振りのライヴ、やっぱしこのライヴを選んで良かった!

( Steve Wallace at the Pilot )
2nd set は、ジャズ・スタンダードの "Alone Together" で始まりました。それぞれのソロ・パートを十分に取って聴きごたえがある一曲でした。やはり知っている曲だと余裕を持って聴けるというか、アレンジなどを楽しめるので嬉しいものですね。
ベーシストの Steve Wallace はトロントでは、なくてはならない存在です。きっとミュージシャンズ・ミュージシャンと言われるようなそんな方なのかもしれません。色々な場所で、彼の演奏を聴きますがそのたびにあっと言わせるフレーズが飛び出します。今回もじわじわとその良さが滲み出るような演奏をされていました。ある時は汗が飛び散るような熱い視線をなげかけ、ある時は消え入るように霧がさざめくごとく、何故彼が、とてもポピュラーな存在なのか分かるでしょう。

( ちょっと不思議な立ち位置でのセッション )
お次はピアニスト Steve Amirault の作品で、彼の御祖母様に捧げられた、とても優しい曲 "Je vois Cl'emonte danser" です。彼のホームページで試聴できますので、お試しくださいな。ピアニストだけでなくヴォーカリストと並行して活動されているだけあって素敵なヴォーカルです。良く考えると彼の名前を知ったのは、ピアニストというようよりもヴォーカリストとして You-tube で偶然に発見したのかもしれません。記憶が定かではないのですが、どちらにしても現在はトロントで活動なさっているので、これからは聴く機会もあるかと思います。

( Steve Hall、 ニューヨークから最近カナダに帰還したミュージシャン )
三曲目は、飛び入りのテナー・サックス奏者 Steve Hall の登場です。この方も、つい最近ニューヨークを拠点に活動されていましたが、古巣のトロントに戻って来られたそうです。Steve Amirault と同じケベック州の友人という関係だそうで、今日は一曲だけ特別に腕慣らしという事でしょうか。Kevin と一緒に "Oleo" の風塵を巻き起こしました。
強面な彼でしたが、休憩にお話ししてみると、なんと可愛い笑顔で恥ずかしそうにお話して下さるのが印象的でした。「ニューヨークでは若くて才能のある奴がワンサカと出てくるんだよ、そんな場所ではなかなか太刀打ちできないさ」と、ライヴの仕事を取るのも一苦労さ、そして生活の為には道路工事などもやってなかなか大変だよと、裏話もして下さいました。ミュージシャンとして生活するって大変なのだなって思いました。

( 平均年齢65歳はいっているであろうという観客層でした。何かの集まりなのか楽しい雰囲気 )
そして休憩を挟んで、3rd set です。こんなに聴かせてもらって本当にタダでいいのと言いたくなるくらい、良いライヴです。一曲目は、"Like Someone In Love" これも Chet で御馴染みの曲ですね。この Quartet 本当に良い感じですね。とにかくリラックスした感がとても私自身をリラックスさせてくれるというか、土曜日の午後にはピッタリというか、あまりヘビーでなくて、かと言ってダレているのではなく、この適量感がなんとも言えなく心地良いのでした。お次も Chet の十八番ですね。"It Could Happen To You" です。しかし Jimmy Van Heusen って良い曲を作る方ですね。ポピュラー・ソングからジャズ・スタンダードになってしまうのが頷けます。
今日は Steve Amirault のヴォーカルでこの曲を楽しみました。声質は私好み寄りなので、もっと違うセッテングで(夜にお食事と静かな環境で)聴きたいなと思いました。アレンジにもセンスの良さを感じます。これからもっと聴く機会があるでしょう。最後にきたのは、Ray Noble の "Cherokee" で景気よく終わりました。今回は早く決断して、このライヴに来たのは正解でした。気分も爽快!ばあ様は、やはりこれで精神状態を維持しているんだなとつくづく実感しました。

( Botos Brothers の御父様 )
そして今回テーブルをご一緒したのが、ドラマーの Frank Botos (ボトッシュ) 兄弟の御父上でした。三人の息子さん達が全員トロントでジャズ・ミュージシャンとして活動しておられる事をとても誇りに思うと、ハンガリアン訛りの英語で語っておられました。ご自身もドラマーであり、そのロマ・ジィプシーの音楽と伝統とルーツをしっかりと息子達は受け継いでいる事でしょう。
さて今回もばあ様の急なリクエストに応えてくれたS君、本当に有難うね。もうすぐ日本に帰ってしまうS君、日本に帰国されるまでに後何回ご一緒できるか分かりませんが、ばあ様の我儘を何時も聞いて下さって本当に感謝です。トロントで素晴らしいミュージシャン達の演奏を体験してカナダのジャズ・シーンを脳裏に焼き付けて帰国されて欲しいと願います。
今時の日本の若者も捨てたもんじゃないね、と感心するばあ様なのでありました。礼儀正しく、努力家で前向き、しかもばあ様に優しく、ヒューモアーもあり、素敵なジャズ・コンパニオンでありました。さて最後はどのヴェニューへお誘いしましょうか・・・・

The Pilot in Toronto