Farewell Oliver Jones at Jane Mallett Theatre 6/28/2016 - 2016.07.13 Wed

( photos by manmarukumi 2016 )
今年のトロント・ジャズ・フェスティヴァル( Toronto Jazz Festival )は、魅力的な出し物が満載でした。時間と財布の中身を考慮して考え抜いた末に手に入れたティケットは二枚。間違いない選択が出来たとばあ様は満足しておりますよ。
さてその二つのコンサートは、どちらも是非聴いておかねばと思っていたアーティストだった事です。今回ご紹介するのは、カナダのピアニスト Oliver Jones です。1934年モントリオール生まれというから、今年は82歳になられるという事で、すでにセミ・リタイアメントをされておられるので、この機会を逃したらもう聴けないかもしれないという危機感と、年齢を考慮したのも理由でした。カナダのジャズを語るにはなくてはならないピアノ・プレーヤー(この表現がしっくりきます) だと思います。
今夜のトリオは、ベース奏者の Eric Lagace とドラムスの Jim Doxas です。この若いドラマーは手持ちの盤を調べてみると多くの Oliver のCDに参加しているようです。メンバー紹介のおりには、トリオの Baby と呼んでいました。



(日本ではあまり人気がないのかも知れませんが、私の好きなアルバムの数々)
そしてコンサートが開く前にステージに立ったのが、Oscar Peterson の愛娘の Celine ではありませんか、その彼女が特別にこのコンサートのオープニングを務めるという理由が、なんとこれが Oliver Jones のフェアウェル・トロント・コンサートになるからと言うではありませんか。Oscar と Oliver の深い関係は、彼らが幼少の頃から始まり、オリヴァー はオスカー の姉である Daisy に小さい頃からピアノを習っていたのでした。彼はモントリオールにある、St-Henri District というブラック・コミュニティーに住み、数件先に住んでいたオスカーのピアノ練習を毎日聴いて育ったそうです。 4歳の頃に初めてオスカーの演奏を教会で聴いて衝撃を受けたそうです。
そういう敬愛するオスカーに励まされ、とても恥ずかしがり屋で無口な少年が、ピアノの前では自由に自分を表現できる一人の青年になれた事を、感謝しているとオリヴァーは懐かしそうに話すのでした。自分がオスカーから受けた愛情溢れるサポートは多大なものだったと、そしてそういう自分も後輩を育てる事を忘れませんでした。若い貧しいミュージシャンの直面している厳しい現在の状況など、彼らが音楽の道を進めるように協力できればして欲しいと最後に訴えていました。

(From TORONTOJAZZ.COM のページより)
さて今回の会場は、トロントのダウンタウンにある小劇場です。トロントのユニオン駅から徒歩5分という場所にある St. Lawrence Centre for the Arts という施設にある Jane Mallett Theatre でした。こじんまりとした半円形をしたステージで、ばあ様の座った席はなんとステージから4列目という近さ、しかも中央辺りだからトリオ全員の顔の表情がとてもよく見えました。しかもオリヴァーがお話をしている時は、まるで私の方を見て話しかけているような角度だったので、ばあ様は大満足です。偶然に最後のコンサートをこの距離で聴けるとはなんと幸せな事か。

( photo from Jane Mallett Theatre home page 2016 )
さて一曲目は、美しいヴァースから入りました。Falling Love With Love という曲はきっと彼のお気に入りなのだと思います。彼のアルバムの中にも入っているから、きっとそうなのでしょう。ピアノ・トリオの良さを凝縮したような演奏で安心感が一挙にホールを包んでしまいました。二曲目はクラシカルのピースで始まりました、美しいイントロはベースの優しい弓使いで暖かい音色を放っています。それぞれのソロ・パートを十分に取ったトリオ演奏はいいものですね。3曲目は、Georgia On My Mind この曲が選択されるとは意外でした、あまり彼のスタイルでこういうタイプの曲を聴いた事がなかったから。4曲目は、ドラムスのソロがフィチャーされたカリプソのリズムを押し出したオリジナル曲、彼のルーツを取り入れた一曲ね。5曲目は、オスカーの作品、オスカーがもっとも気にいっていた When Summer Comes、これは本当に美しい小曲なのね、ピアノの旋律から空の色や、そこにある空気感や、景色を感じ取れるなんて、音楽とはなんと素敵なものでしょう。
次の曲もオスカーの Why Think About Tomorrow? 彼の事を語る時のオリヴァーは、もう感情が抑えきれない様子です。引退を目前にして感無量という感じなのでしょう。もうコンサートもツアーもしないけど、ピアノを弾かない分けじゃないからと、でも腰が痛くって長く座ってられないよ、とギヴ・アップのジェスチャーでお茶目な笑顔を忘れません。
しかも今夜は、普段僕のコンサートにはめったに現れない親戚の連中がきてるじゃないか、と観客席の方を指をさすオリヴァー。コンサートの始まる前に、ホールで少し煩い女性のグループが目立っていたのですが、それが実は彼の親戚であったのには、なるほどね。姪達だという事で、きっと叔父様の最後のコンサートをお祝いしていたのでしょう。その他には、彼が過去に演奏した今はもう存在しない、トロントにあったモントリオール・ビストロという名の知れたジャズ・ヴェニューの元オーナー夫妻が会場に、オリヴァーは目ざとく彼らを探しだし、感謝の気持ちを表していました。今夜は彼にとって特別なコンサートになった事は間違いないでしょう。
コンサートも終わりに近づいて、彼が一番好きだという Gershwin の作品をメドレーで。まずは Cheek to Cheek です、嗚呼 Fred Astaire の踊っている様子が浮かびますね。そして少しドラマティックに Rhapsody In Blue、 もう数曲 Gershwin が続いて最後の演奏はやはり Hyme to Freedom がきました。この曲は、色々な国、人種、社会的、政治的な苦境にたたされている多くの人々の為だけではなく、毎日を普通に生きる私達の為にもある曲だと思います。コンサートの締めくくりに、この曲が選ばれる場合が多々ある事がうなずけます。オリヴァーの最後のコンサートはスタンディング・オベーション、拍手はなりやまず、会場は暖かい雰囲気で包まれていました。

( 前から4列目の中央席からのステージはこんな感じ、顔の表情までよく見えました)
さてオリヴァーさん、Officer of Order of Canada (カナダの文化勲章みたいなもの、長年の功績を称えて贈られる)はもちろんのこと、2005年にはカナダでも最高にあたる Governor General's Performing Arts Award も受賞されています。生まれ故郷のケベック州からは、The National Order of Quebec の Chevalier (Knight) ナイトの称号も受けられました。
ジャズの方では、Juno Award, Felix Award, National Jazz Award Keyboardist of the year など多くの賞を受賞されています。その功績から Montreal International Jazz Festival からは、カナダのジャズの発展に貢献した音楽的才能を持った演奏者として、 Oscar Peterson から第二番目のアーティストして認識されました。でもオリヴァーさん、とても謙虚で優しいのです。1989年に制作された Oliver Jones in Africa というドキュメンタリー映画を観て私は彼に興味を持ったのかもしれません。音楽のルーツを辿るアフリカの旅をするオリヴァーと数人のミュージシャン、そこには Dave Young さんも参加されていました。ジャズに限らずちょっとしたところから、人やモノや場所に興味をもって掘り下げたくなるのは楽しい事ですね。
さてアンコールはソロ・ピアノで、何の曲だったか思い出せません。その後もなりやまぬ拍手、今度はトリオで意外なマイナーなブルース。オリヴァーは少し疲れた様子、きっと腰も痛いのでしょう。もう時間切れだ、ロビーでサイン会があるからここらで御しまいだよと、ステージの裾へ。今回は本当にラッキーな事に、彼の最後のコンサートを聴く事が出来てばあ様は幸せな気分で家路に着いたのでした。
コンサート・ホールはダウンタウンだったので、今回はバスを使用しました。コンドのすぐ近くのバス停から飛び乗ると、一本線でコンサート・ホールから数分のバス・ターミナルに到着します。これなら夜遅くても安心、帰路バス停に駆け込むとうまい具合に私の乗るバスが待っていました。このバスは普通の市バスではなく、長距離用のとても座り心地の良いシートなのです。ゆっくりと夜景を見ながら家路につくのもいいものです、頭の中では、Falling Love With Love のメロディーが繰り返し夜景と重なって動きます。
最近夜の運転がとても億劫になってきました。しかもほとんどのコンサートが仕事が終わってからのラッシュ・アワーに引っかかるのが最悪です、なのでヴェニューを選ぶ場合もかなり交通の便を考慮して決めねばなりませんでした。リタイアーしたら車の生活ともさよならしようと計画しているので、これも交通機関を使う良い練習ですね。シンプルな生活を目指して、少しづつ目標に近づけるといいな。
もうひとつ、オリヴァーさんは切手にもなっているのですね。なんだかとてもレトロなデザインですね。これだけ有名なカナダのピアノ・プレーヤーですが、日本ではあまり人気はなかったのかも知れませんが、カナダではとても愛されているミュージシャンのお一人です。
オリヴァーさん、ありがとう!お元気でね。

(オリヴァー・ジョンズの切手)